家賃値上げは拒否できる?「供託」の仕組みと借地借家法をやさしく解説

生活設計

大家さんから「家賃を上げます」と言われたら? 知っておきたい「納得」のルール

賃貸マンションやアパートに住んでいると、数年に一度の「更新」のタイミングで、大家さんから一通の手紙が届くことがあります。

「最近、物価も上がっていますし、来月から家賃を5,000円アップさせてください」

これを見たとき、「大家さんが決めたことなら、従うしかないのかな」と不安になる方も多いでしょう。でも、安心してください。日本の法律(借地借家法)は、大家さんと借りる人の双方が、対等に、そして納得して契約を続けられるような仕組みを作っています。

今回は、知っているようで知らない「家賃値上げのルール」と、もしもの時の強い味方「供託(きょうたく)」について、わかりやすく解き明かしていきます。


1. 家賃は「一方通行」では決まらない

まず、一番大切な基本のルールをお伝えします。 それは、**「家賃の変更には、貸す側と借りる側の両方の合意が必要」**ということです。

大家さんが「来月から1万円アップだ!」と決めても、それだけで自動的に家賃が上がることはありません。なぜなら、家賃は大家さんとあなたの間にある「約束(契約)」だからです。約束の内容を変えるには、お互いが「いいですよ」とハンコを押す必要があるのです。

  • 話し合いがスタート地点: 大家さんが値上げをしたいときは、まず理由(周りの家賃が上がった、税金が増えたなど)を説明し、あなたに相談することから始まります。
  • 「納得できない」と言ってもいい: もし理由に納得がいかなければ、「今の家賃のままがいいです」と伝える権利があなたにはあります。

「断ったら追い出されるかも……」と怖くなる必要はありません。家賃の交渉で意見が合わないというだけで、住んでいる人を追い出すことは日本の法律では認められていないからです。


2. 「今の家賃」を払い続ければ、住む権利は守られる

交渉が平行線になってしまったらどうなるのでしょうか? 「値上げした金額を払わないなら、出ていってくれ!」と言われるのが一番怖いですよね。

しかし、ここでも法律があなたを守ってくれます。 話し合いが決着するまでは、「今までの家賃」をしっかり払い続けていれば、あなたはそのままその部屋に住み続けることができるのです。

大家さんが値上げを受け入れないことを理由に「もう更新はしない!」と言い出したとしても、あなたが住み続けたいと願えば、契約は自動的に続いていく(法定更新といいます)仕組みになっています。

「普通」と「定期」の違い(ここも確認が必要!)

現代の借地借家法で最も実務的な違いが、**「普通借家(借地)契約」「定期借家(借地)契約」**の区別です。

項目普通借地借家契約定期借地借家契約
契約の更新あり。 借りる側が希望すれば、原則更新される。なし。 契約期間が終われば、必ず返さなければならない。
貸主からの終了「正当な事由」が必要(かなりハードルが高い)。期間満了で自動的に終了する。
書面契約口頭でも成立する(が、通常は書面)。必ず公正証書などの書面が必要。
主な目的借りる人の住む権利を長期的に保障する。期間限定の転勤中や、取り壊し予定の物件などで利用。

3. 大家さんが家賃を受け取ってくれない? そんな時の「供託」

ところが、困った事態が起こることがあります。 あなたが「今の家賃」を払おうとしても、大家さんが**「値上げ後の金額じゃないと受け取らないよ!」**と拒否してしまうケースです。

家賃を受け取ってもらえないまま放置すると、形の上では「家賃を払っていない人(滞納者)」になってしまいます。これはあなたにとって非常に不利な状況です。

このピンチを救ってくれるのが、**「供託(きょうたく)」**という国の制度です。

供託の仕組みをイメージしよう

  1. 法務局へ行く: 地域の「法務局」という役所へ行き、「大家さんが家賃を受け取ってくれないので、代わりに預かってください」とお願いします。
  2. 国に家賃を預ける: これまで通りの家賃を、法務局に預けます。
  3. 「払ったこと」になる: 国にお金を預けた時点で、法律上、あなたは「ちゃんと家賃を払った」と認められます。これで滞納者になる心配はなくなります。

供託は、感情的なぶつかり合いを、事務的な手続きで「クールダウン」させるための避難所のような場所なのです。


4. 海外の様子はどうなっているの?

ここで、少しだけ海外の様子をのぞいてみましょう。

アメリカやイギリスなどの英語圏では、契約の考え方がもっとドライです。

  • 英語圏: 「契約期間が終わったら終わり。次の家賃が払えないなら出ていく」という、市場のルールが優先されます。地域の人気が出れば、家賃が2倍になることも珍しくありません。
  • 日本: 「住まいは生活の基盤。家賃が上がったからといって、急に追い出されては困る」と考えます。

日本のルールは、一見すると借りる人に甘すぎるように見えるかもしれません。しかし、これは「誰もが安心して明日も同じ屋根の下で眠れるように」という、社会全体の安定を願って作られた知恵なのです。


5. 最後に大切なのは「対等な話し合い」

もちろん、大家さんも困らせたいわけではありません。建物の維持費が本当に上がって、やむを得ず値上げをお願いしている場合もあります。

大切なのは、以下の3点です。

  1. 大家さんの理由を聞く: なぜ値上げが必要なのか、根拠を教えてもらいましょう。
  2. 自分の状況を伝える: 値上げが難しいなら、その理由を誠実に話しましょう。
  3. 「供託」という守りを知っておく: 万が一の時の避難所を知っていれば、落ち着いて交渉ができます。

家主と借主。立場は違っても、同じ建物を大切にするパートナーであることに変わりはありません。法律というルールを味方につけて、お互いが「この部屋でよかった」と思える解決策を見つけていきましょう。

免責事項: 本記事の内容は、借地借家法および供託制度に関する一般的な情報の提供を目的としたものであり、特定の法的トラブルに対してアドバイスを行うものではありません。実際の家賃交渉やお手続きに際しては、必ず弁護士や法務局、専門の相談機関へご確認いただくようお願いいたします。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

コメント