定年が近づいた頃、退職後はのんびりしよう、ゆっくりしようと考えていました。
長く働いてきたのだから、少し休んでもいいだろう。時間はいくらでもある。そう思っていました。
実際に退職してみると、違いました。
来たのは、ひまではなく不安でした
私が定年退職したのは2020年の年末です。
翌日から、時間はたしかに空きました。ところが「やることがない」と感じた時期は、ほとんどありませんでした。退職者の話としてよく聞く、何をしていいか分からず一日が長い、という状態にはならなかったのです。
代わりに来たのは、不安でした。
はっきりした理由のある不安ではありません。お金が今日明日どうこうという話でもない。強いて言えば、仕事をしていない、いわゆる無職という状態そのものから来る落ち着かなさでした。見えない不安、としか言いようのないものです。
のんびりしたいと思っていたはずなのに、いざのんびりできる状態になると、そちらのほうが強く出てきました。これは自分でも意外でした。
1ヶ月足らずで、また働き始めました
そこで、退職してすぐに次の仕事の申し込みを始めました。休むつもりだったのに、退職から数日のうちに動き出していたことになります。
結果として、1ヶ月足らずで次の仕事が決まりました。ほぼフルタイムです。
いま振り返ると、私はこの不安を、考えて解消したわけではありません。働き始めたら収まった、というだけです。原因を分析して手を打ったのではなく、元の状態に戻したら落ち着いた。それが正直なところです。
変わったのは、朝のコーヒーの時間だけでした
働き始めてからの生活のリズムは、現役の頃とまったく同じに戻りました。
起きる時間も、家を出る時間も、帰ってからの過ごし方も、ほとんど変わりません。定年という区切りを越えたのに、一日の形はそのままでした。
変わったことを挙げるなら、ひとつだけです。朝のコーヒーの時間が、以前よりゆっくり取れるようになりました。
小さな違いです。それでも、私にとっての定年後の変化は、実感としてはこれくらいでした。大きく生き方が変わったわけではありません。
定年後は何かが劇的に変わる、という話をよく見かけます。私の場合はそうなりませんでした。同じようにお考えの方がいるかもしれないので、正直に書いておきます。
30年続いていたものは、退職をまたいでも変わりませんでした
一方で、退職の前も後も、まったく変わらなかったものがあります。運動です。
ランニングとウォーキングを、30年以上にわたって生活の一部にしてきました。平均すると週に3回から4回です。大会にも毎年出ています。出場しなかった年が思い当たらないくらい、毎年出ています。
計算してみます。30年以上続けてきて、2020年に退職したということは、退職した時点ですでに25年以上は続いていたことになります。つまりこれは、定年後に見つけたものではありません。定年のずっと前からあって、定年をまたいでも途切れなかったものです。
退職して環境が変わったとき、何が残るかは、事前には分かりませんでした。結果として残ったのは、いちばん長くやっていたものでした。
いま定年を控えている方にお伝えできることがあるとすれば、ここだと思います。定年後に何を始めるかより、いますでに何年も続いているものが自分にあるかどうかのほうが、たぶん効いてきます。 私の場合はそれが運動でした。
新しく始めたものもあります
もちろん、新しく始めたものもあります。
私がAIに本格的に取り組み始めたのは、2026年3月の下旬です。Claude Code というツールに課金したところから始まりました。そこからは、終日画面に向かっている日もあります。
最初に作ったのは、数をかぞえるだけのウェブアプリでした。次に、ランニング仲間と記録を共有するグループラン用のアプリを作りました。ホームページも作りました。
この過程で、ウェブの仕組みがおぼろげながら分かるようになりました。仕組みが分かってくると、次に作りたいものが出てきます。
ここで自分でも気づいたことがあります。最初に作ったアプリも、次に作ったアプリも、行き先は結局ランニングでした。新しいことを始めたつもりでいて、30年続けてきたもののほうへ戻っている。まったく別の何かを始めたわけではありませんでした。
定年後に「何か」を見つけなくてもよかった
ここまで書いてきたことをまとめます。
私は定年後に、生きがいと呼べるような何かを新しく見つけたわけではありません。探しもしませんでした。
起きたことは3つです。不安が来たので働きに戻ったこと。生活のリズムは変わらなかったこと。そして、30年続けてきた運動だけが、前も後も同じようにあり続けたことです。
AIという新しいものにも取り組みましたが、作ったものをたどると、結局は長く続けてきたほうへ向かっていました。
定年前の私は、退職したら何か新しいことを始めなければ、と漠然と思っていました。いま振り返ると、その必要はありませんでした。すでに持っていたものが、そのまま続いただけです。
同じ時期を迎える方に、当てはまるとは限りません。私の場合はこうだった、という一例として書きました。もし何かひとつ参考になるとすれば、定年後に備えて何かを探すより、いま続いているものを切らさないほうが、あとで効いてくる、ということだと思います。

