カフェで隣の席から、流暢な英語でオンライン会議をこなすビジネスパーソンの声が聞こえてくるとしましょう。一見、非常にスマートで「デキる」印象を受けます。しかし、もしその人が会議を終えた後、日本語で「結局、何が決まったんですか?」と誰かに尋ねていたとしたらどうでしょう。
ここに、現代の英語学習が抱える大きな落とし穴が隠れています。
昔から英語教育の若年化はいろいろなところで取り上げられていて、私も良い傾向であるとは、考えていました。しかし、多くの本を読み、そして、多くのテキストを読むようになって、この言語を理解する力は、どうしたら上がっていくのだろうと疑問を抱くようになりました。
そんな中、母国語(日本語)の理解そのものが、とても重要だと認識するようになりました。
この問いについて、考えてみましょう。
1. 料理に例える「思考と語彙」の関係
例えば、あなたが「投資の資産配分」について、あるいは「フルマラソンのLT値(乳酸作業閾値)」について深く考えているとします。
このとき、頭の中では何が起きているでしょうか。 私たちは言葉を使って、複雑な事象を切り分け、整理し、自分なりの答えを導き出しています。
- 言語は「包丁」: 食材(情報)を細かく切り分け、料理(思考)を作るための道具。
- 母国語は「使い慣れた包丁」: 長年使い込み、手の延長のように扱えるもの。
- 習得途中の外国語は「重くて鈍いナイフ」: 思うように動かず、食材の繊維を潰してしまうもの。
英語という「慣れない道具」で無理に料理を作ろうとすれば、本来ならもっと繊細に、もっと深く切り込めるはずの事象も、大雑把な「表面上の理解」で終わってしまいます。これが、日本における英語教育が招きかねない「理解力の低下」の正体です。
2. AI時代だからこそ問われる「思考の解像度」
最近話題のAI(人工知能)を活用する場面を想像してください。 AIに質の高い回答を出させるためには、**CoT(思考の連鎖)**と呼ばれるプロセスが重要だと言われています。つまり、「どういう順序で、どれだけ具体的に指示を出すか」という、人間側の論理構成力が問われているのです。
この論理構成力(指示文を練る力)の根源はどこにあるか。それは間違いなく「母国語の力」です。
日本語で「この問題の本質は何か?」を10層、20層と深掘りできない人が、英語に切り替えたからといって、突然鋭い視点を持てるようにはなりません。むしろ、言葉の壁が心理的なブレーキとなり、思考の歩みが止まってしまうのです。
3. 「英語圏」と「日本」の比較から見える本質
英語圏のコミュニケーションは「ローコンテクスト(言葉に依存する)」、日本は「ハイコンテクスト(文脈に依存する)」とよく言われます。
- 英語: 結論から入り、論理の筋道を一つずつ明示する。
- 日本語: 繊細なニュアンスや「間」を含み、全体像から本質を捉えようとする。
この違いを理解し、相手の文化の「本質」を見極めるためにも、まずは自分の土台である日本語で「物事を深く、多角的に見る目」を養う必要があります。母国語という言葉の理解力が貧弱なままでは、どんなに高性能な英語アプリをインストールしても、システム全体が本来のパフォーマンスを発揮することはないのです。
4. まずは「日本語」という剣を研ごう
「英語ができるようになりたい」と願うなら、その情熱の半分を「日本語で深く考える時間」に割いてみてください。
本を読み、自分の言葉で要約する。 日常の違和感を、逃さず言葉にしてみる。 複雑な投資戦略やトレーニング理論を、小学生でもわかる言葉で説明してみる。
そうして磨かれた「思考の深さ」は、いざ英語という道具を手にしたとき、圧倒的な説得力となって相手に伝わるはずです。語るべき「中身」がないまま、語り方だけを磨くのはもう終わりにしましょう。
私たちの知性の源泉は、いつだって母国語という深い海の中にあります。
「概念のルーツ」を漢字から紐解く
日本語の強みは「漢字」という表意文字にあります。新しい言葉に出会ったとき、その漢字の意味を噛みしめる癖をつけます。
- トレーニング法: カタカナ語や専門用語を、あえて漢字の熟語に解体して理解してみます。
- 例:**「アセットアロケーション」を「資産配分」**と捉え直し、「資産(価値あるもの)」を「配(くばる)」「分(わける)」という行為としてイメージする。
- なぜ効くのか: 漢字は一目で意味を予測できる力を持っています 。漢字の意味に立ち返ることで、言葉の持つ本来のエネルギーを思考に取り入れることができます 。

5. 日本語を磨くための「3つのマインドセット」
- 「何を語るか」に時間をかける: 英語のフレーズを覚える時間の半分を、日本語で「自分の意見」を深掘りする時間にあてましょう 。
- 良質なインプットを: ネットの断片的な情報だけでなく、一貫した論理で書かれた「新書」や「古典」を日本語でじっくり読み、著者の思考プロセスを追体験します 。
- 「必要ない」ことを誇る: 英語が苦手なのは、日本語だけで豊かに学べる素晴らしい環境が整っている証拠でもあります 。その特権を活かし、まずは母国語で世界最高水準の深さまで考え抜く習慣を持ちましょう 。
まとめ:思考の深さは「立ち止まる力」から 効率を求める現代では、すぐに答えを求めがちです。しかし、そこをあえて立ち止まり、自分の言葉で「これってどういうことだろう?」と問い直す。その一見遠回りに見える時間が、あなたの知性の土台を最も強固にしてくれます。
物事を理解する上で、母国語の果たす役割はとても重要です。英語が母国語であれば、英語で思考を深められる力をつけなければなりません。
少しでも、物事の意味を深く理解することを考えてみましょう。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。


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