「老後資金はいくらあれば安心か?」 そんな問いに、私たちは長く向き合ってきました。しかし、60代を迎え、ふと気づくことがあります。「お金を増やすこと」だけが、人生の目的ではなかったはずだ、と。
今、私たちが目指すべきは、通帳の数字を増やすことだけではなく、「人生の満足度(QOL)」を最大化すること。今回は、金融理論を人生設計に応用した「QOLポートフォリオ」を参考に展開したいと思います。
インスピレーションの源泉 この『思い出口座』の考え方は、全米でベストセラーとなったビル・パーキンス氏の著書**『DIE WITH ZERO』で提唱されている『思い出の配当』という概念がベースになっています。また、経済学の世界でも、人生全体を一つのポートフォリオと捉える『ライフサイクル・ファイナンス』**という理論として確立されているものです。
「貯める」から「使い切る」への価値観転換
現役時代のポートフォリオは、人的資本(労働収入)を金融資本(貯蓄・投資)に換えていくプロセスでした。しかし、人生後半のステージでは、徐々にその役割は逆転します。
これからは、蓄えてきた金融資本を、いかに「最高の経験」という満足度に変換できるかの勝負です。
| 資産の種類 | 役割 | 具体的な運用(60代の例) |
| 金融資産 | 生活の盾と楽しみの源泉 | NISA等の運用を続けつつ、計画的に「取り崩す」。 |
| 健康資産 | 満足度を高める「乗数」 | 運動習慣や日々の食事など、動ける体を維持する投資。 |
| 時間資産 | 唯一増やせないリソース | AIやデジタル機器で効率化し、本当にやりたいことに充てる。 |
「思い出口座」とは何か?
私たちが投資をする真の目的は、数字を増やすことではなく、「人生の満足度(効用)」を最大化することです。
- 金融口座(NISA等): 購買力を維持し、将来の不安を解消するための「守り」。
- 思い出口座: 今しかできない体験に投資し、一生消えない「記憶の配当」を得るための「攻め」。
この2つの口座を同時に回していくのが、人生後半の「本質的」な資産運用です。
60代にこそ「攻め」が必要な理由
ここで重要なのが、**健康(Health)**という資産です。 80代になってから100万円使うよりも、60代で使う10万円の方が、その後の人生で「あの時は楽しかった」と思い返せる期間が長く、結果として得られる価値(配当)が大きくなります。

実践! 「思い出口座」の作り方
やり方はいたってシンプルで、自分への「前向きな出金」です
出金ルールの例
- 運用益還元ルール(ご褒美投資)
- 設定: 定期的にNISA口座の評価益(増えた分)の10%を「思い出口座」に移動し、贅沢な体験に使う。
- メリット: 相場が良い時は楽しみ、悪い時は身を締めるという自然なサイクルが生まれます。
- 定額・先取りルール(迷いゼロ投資)
- 設定: 毎月の予算から一律「5,000円〜10,000円」を、年金支給日に強制移動。
- メリット: 「最初からないお金」と決めることで、使う時の迷いや罪悪感が消えます。
「心の通帳」に貯金する:バーチャル運用のススメ
ここでもう一つあります。「思い出口座」をリアルなお金ではなく、**「人生の満足度を数値化する仮想の台帳(バーチャル・レジャー)」**として運用する方法です。
現実の口座からお金が出ていくとき、私たちはつい「減ってしまった」という痛みに目がいきます。しかし、その代わりに手に入れた「経験」を、自分なりの価値をつけて貯金し直すのです。
- フルマラソン完走: 100万円
- 仲間と笑い合ったドライブ: 50万円
- 朝の淹れたてコーヒーと読書: 1,000円
出費(コスト)ではなく価値(バリュー)で人生を眺めると、昨日までの景色が違って見えてきます。このバーチャル口座を見れば見るほど、自分はどんどん「豊か」になっていく。これこそが、人生後半から始める本当の意味での資産運用です。
価値を決めるのは「自分勝手」でいい
金額を決める基準は、支払った額ではなく「自分の心」です。
- 希少性: 「一生に一度」か「日常の延長」か
- 達成感: 「自分の限界を超えた」か「快適に過ごした」か
- 繋がり: 「深い対話があった」か「一人で完結した」か
さらに、「初体験ボーナス(×1.5倍)」や、苦労を乗り越えた「努力ボーナス(×2.0倍)」、なども追加すると楽しくなります

運用上の注意点
「簿記」ではなく「アート」だと心得る 正確にやろうとすると義務になります。「えいや!」という直感を大切に、気が向いた時にまとめてやっても良いでしょう。
「他人との比較」を捨てる SNSのキラキラした生活と比較する必要はないです。人から見ればただの散歩でも、あなたが最高だと感じたなら、それは1億円の価値がある資産なのです。
最後に:本質を生きる
人生の最終盤に私たちが持っていけるのは、銀行の残高ではなく、この胸に刻まれた「思い出」だけ。
「将来が不安だから」と、今の楽しみを後回しにする生き方は、もう終わりにしたい。これからは、お金という道具を賢く使い、自分なりの黄金バランスを整えていく。
現実の資産はいつか尽きるかもしれませんが、思い出口座に貯まった豊かさは、誰にも奪われることはありません。
今日はどんな「思い出」を、あなたの口座に預け入れますか?
最後までお読み頂き、ありがとうございました。


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