「高い買い物をした後に後悔したことがある」 「『期間限定』と言われて、つい不要なものまで契約してしまった」 「元を取ろうとして、食べ放題で食べすぎて気持ち悪くなった」
もし心当たりがあるなら、あなたに必要なのは**「標準的な経済学(Standard Economics)」**という武器です。
私たちは普段、気分やその場の雰囲気、あるいは「なんとなく良さそう」という直感で物事を決めてしまいがちです。しかし、この学問の世界では、人間を**「ホモ・エコノミクス(経済人)」**と定義します。
ホモ・エコノミクスとは、**「常に冷静沈着で、感情に振り回されず、自分にとって利益が最大になるように計算して行動できる人」**のこと。つまり、スーパーコンピューターのような理性を持った人物像です。
もちろん、生身の私たちが完全なホモ・エコノミクスになることは不可能です。しかし、人生の重要な決断の場面で、意識的にこの**「冷静な電卓」**を叩くことができれば、無駄な出費や時間の浪費を劇的に減らすことができます。
この武器を使いこなすための、3つの重要な概念(計算式)を解説します
「機会費用」:その安さは、時間の無駄ではないか?
標準的な経済学において、最も強力かつ日常的に使える概念が**「機会費用(Opportunity Cost)」**です。
これは、**「ある選択をしたことで、失ってしまった(選べなかった)価値」**のことです。
【具体例】10円安い卵のために隣町へ行く主婦
あるスーパーA店で卵が200円で売っています。しかし、隣町のスーパーB店では特売で190円です。 「10円安い!」と喜び勇んで、自転車で往復30分かけてB店に行きました。
- 感情の判断: 「10円得した!私は買い物上手だ」
- 冷静な電卓(標準的な経済学)の判断: 「大損をしている」
【解説】 もし、その人のパートの時給が1000円だと仮定しましょう。 往復30分かけたということは、時間換算で「500円分の労働価値」を消費したことになります。 つまり、10円の現金を節約するために、500円分の時間を捨てたのです。 「500円(失った時間価値)- 10円(得た金額)= 490円の赤字」 これが機会費用の考え方です。
【日常生活での応用】
行列のできるラーメン屋に2時間並ぶ時、自分の時給を掛けてみてください。時給2000円の人なら、そのラーメンには代金とは別に「4000円」の見えないコストが掛かっています。 「本当にそこまでして食べる価値があるか?」を冷静に問うことができます。
「サンクコスト」:過去の出費に縛られて未来を捨てるな
2つ目の概念は**「サンクコスト(埋没費用)」です。 これは、「すでに支払ってしまい、どうやっても取り返せないお金や時間」のことです。 標準的な経済学の鉄則は「サンクコストは無視して、これからのことだけを考えろ」**です。
【具体例】つまらない映画と高いチケット代
評判の良い映画を見ようと、2000円払って映画館に入りました。しかし、開始30分で「これは史上稀に見る駄作だ、つまらない」と気づきました。
- 感情の判断: 「せっかく2000円も払ったんだから、最後まで見ないと『もったいない』」
- 冷静な電卓の判断: 「今すぐ映画館を出て、カフェで読書でもすべきだ」
【解説】 あなたが映画館を出ても出なくても、支払った2000円は絶対に戻ってきません(これがサンクコスト)。 ここで考えるべきは、「残りの1時間半」の使い方だけです。 「苦痛を感じながら1時間半を過ごす」のと、「映画館を出て有意義に1時間半を使う」のと、どちらが今のあなたにとってプラスか? 答えは明白です。「もったいない」という感情が、さらなる損失(時間の浪費)を招くのです。
【日常生活での応用】
- 読書: 買ってしまったからと、興味のない本を無理して読み続けない。
- 事業・投資: 「今までこれだけ投資したから」と、赤字が膨らむプロジェクトや下落し続ける株を持ち続けない。
- 習い事: 入会金を払ったからといって、行きたくないジムに行かない(行くのが苦痛なら、会費はサンクコストとして割り切り、退会するのが合理的です)。
「限界効用」:1杯目のビールと10杯目のビールの価値は違う
3つ目は**「限界効用(Marginal Utility)」です。 少し難しそうな言葉ですが、意味は「モノが増えるごとに、そこから得られる満足度は減っていく」**という法則です(限界効用逓減の法則)。
【具体例】食べ放題の悲劇
焼肉食べ放題に行きました。最初の数枚は最高に美味しいです。しかし、終盤になるとお腹が苦しくなり、味もわからなくなってきます。それでも「元を取らなきゃ」と詰め込みます。
- 感情の判断: 「たくさん食べるほど得をする」
- 冷静な電卓の判断: 「満足度がコストを下回った瞬間に食べるのをやめるべき」
【解説】 最初の1皿目の価値(効用)は100点かもしれませんが、10皿目の価値は5点、あるいはマイナス(苦痛)かもしれません。 標準的な経済学では、「追加の満足度(限界効用)」と「追加のコスト(価格や身体的負担)」が釣り合ったところでストップするのが最も賢い(総満足度が最大になる)と教えます。
【日常生活での応用】
- 保険選び: 不安だからとあれもこれも特約をつける人がいます。しかし、保障額が1億円から2億円になっても、安心感(効用)は2倍になりません。必要な分だけ加入するのが正解です。
- サブスクリプション: 動画配信サービスを3つ契約していても、あなたが1日に見られる時間は限られています。3つ目のサービスの「限界効用」は限りなくゼロに近いはずです。

まとめ:武器としての「冷静な電卓」の使い方
標準的な経済学は、決して「冷徹な人間になれ」と言っているわけではありません。 **「感情や『もったいない』という気持ちが、かえってあなたに損をさせている事実」**に気づかせてくれるツールなのです。
日常生活で迷ったら、心の中でこの「電卓」を取り出してください。
- 「これをやることで、私は何を犠牲にしている?(機会費用)」
- 「今まで払ったお金のことは忘れて、今からどうするのがベスト?(サンクコスト)」
- 「これ以上増やして、本当に満足度は上がるのか?(限界効用)」
この3つの問いかけをするだけで、あなたの選択は劇的に合理的になり、手元に残るお金と時間は確実に増えていくでしょう。
しかし、人間はどうしてもこの「冷静な電卓」を弾き続けられない弱い生き物でもあります。わかっていても、つい高カロリーなケーキを食べてしまうし、宝くじを買ってしまうのです。
そこで次回は、そんな**「合理的に振る舞えない私たちの弱さ」を科学し、それを逆手にとって生活を改善する武器、『行動経済学(自分を知る色眼鏡)』**について解説します。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。


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