50年ローンは得か?損か?数字で検証して見えた「契約者リスク」

投資

「50年ローン」は、住宅ローンの返済期間を最長50年まで引き延ばすことで、毎月返済額を下げる(または同じ返済額で借入額を増やす)ことを狙った仕組みです。
日本ではここ数年、ネット銀行・一部銀行で最長50年の商品が出てきており、全期間固定の「フラット50」もあります。今回この50年ローンのリスクを数字で検証してみました。

50年ローンの仕組み

基本はシンプルで、元利均等返済の“返済回数”を増やす発想です。期間を長くすると、毎月の返済に回す元本が薄まるので、当面のキャッシュフローは軽く見えます(ただし、その分だけ利息を払う期間も伸びます)。

実務としては、次のような「条件」「設計」がセットになりやすいです。

  • 金利上乗せ:35年超にすると金利を上乗せする設計が多い(例:年+0.10%や+0.15%など)。
  • 完済時年齢の上限:完済時80歳未満(例:79歳まで)を条件にするケースが一般的。
  • 全期間固定の50年枠もある:住宅金融支援機構の「フラット50」は、最長50年・全期間固定ですが、長期優良住宅等の要件が付き、融資率(購入価額等の9割以内など)も条件化されています。

メリット(契約者側の“得”になり得る点)

  1. 毎月返済額を下げられる たとえばSBI新生銀行の公表例では、5,000万円を35年→50年にすると、金利は上乗せされつつも月返済が下がる試算が示されています。
  2. “買える物件”の範囲が広がる(=借入可能額を押し上げやすい) PayPay銀行も、期間延長により返済額が抑えられ、借入金額の増額を検討しやすい、という趣旨を明示しています。
  3. (固定型なら)長期で返済額を確定できる選択肢がある 全期間固定のフラット50は「返済額がずっと変わらない」という意味では見通しが立ちやすい部類です(ただし条件付き)。

デメリット(仕組みとして避けにくい“痛み”)

  1. 総支払利息が増えやすい(期間が長い=利息を払う時間が増える) 月々が軽くなる代わりに、トータルでは重くなりやすいのが大原則です。これは日本でも海外でも同じ構造です。
  2. 元本が減りにくく、売却・住み替えが難しくなりやすい 返済前半は利息割合が厚くなりやすく、残債が大きいまま時間が進みます。結果として、転勤・離婚・介護・住み替えなどで売りたい時に、**売却額<残債(オーバーローン)**になりやすい、というリスクが指摘されています。
  3. 変動金利だと“金利リスクにさらされる期間”が長い 日本の変動には ※「5年ルール」「125%ルール」があるケースが多い一方で、金利が上がると返済額が据え置かれても元本の減りが鈍る/利息が後ろに繰り延べられる形になり得ます。 (つまり「月々が急に上がらない」≒「安全」ではありません)
  4. “人生の後半”まで債務が残る設計になりがち 完済時年齢80歳未満が一般的だとしても、50年を成立させるには借入開始が若いことが前提になりやすい。これは「教育費・転職・起業・介護」などライフイベントの不確実性を、長期間かぶり続ける形になります。

5年ルール:変動金利型の住宅ローンで、金利が見直されても「毎月の返済額」は原則5年間は据え置かれる仕組みです。返済額が急に跳ね上がりにくい一方、金利が上がると利息分が増え、元本の減りが遅くなる(場合によっては利息を後ろに繰り延べる)点に注意が必要です。契約内容の確認が必要です。
125%ルール:5年ごとの返済額見直しの際、増額できる上限を「直前の返済額の1.25倍まで」に抑える仕組みです。急激な負担増を防ぐ反面、金利上昇が大きいと返済額を十分に上げられず、元本が減りにくい状態が長引いたり、未払い利息が発生する商品もあるため、契約内容の確認が重要です。

契約者リスク

A. キャッシュフロー錯覚リスク

月々が下がった分、浮いたお金が必ず貯蓄・投資に回るとは限りません。生活水準が上がると、結局「長期負債+支出増」になりやすいです(仕組み上の罠)。

B. 価格下落・流動性リスク(売れない/売ると赤字)

日本は地域差が大きく、建物価値が下がりやすい局面もあります。残債が大きい期間が長いほど、売却時の自由度が下がります。

C. 金利上昇・制度変更リスク(特に変動)

金利局面が変わると、長期ほど影響を受ける“期間”が伸びます。5年ルール等があっても、内訳として利息が増え元本が減りにくくなる可能性があります。

D. 団信・健康・働き方リスク

超長期は「働ける前提」に寄りがちです。病気や収入形態の変化が起きた時、残債が大きいと立て直しが難しくなります(団信の範囲も商品差が大きいので要確認)。


以下、「数字で検証」します。SBI新生銀行が公表している具体例(借入5,000万円、35年=年0.68%、50年=年0.78%〔+0.10%上乗せ〕)をベースに、同じ条件で元利均等返済の計算を再現し、さらに「残債の減り方」「金利上昇時の影響」まで広げて検証します。  

前提(検証条件)

  • 借入元本:5,000万円
  • 返済方式:元利均等返済
  • 返済期間と金利:
    • 35年:年0.68%
    • 50年:年0.78%(35年超で+0.10%上乗せの例) 

注:変動金利は将来変わり得ますが、まずは「金利がずっと同じ」ケースで比較し、次に「金利上昇」ケースを別枠で試算します。


月々返済額(公表例の“再現”)

計算すると、

  • 35年(年0.68%):月 約133,809円(約13.3万円)
  • 50年(年0.78%):月 約100,664円(約10.0万円)

これは、公表されている「35年で約13.3万円、50年で約10万円」という説明と合致します。 


総支払額・総利息(“月が軽い”代わりに何が増えるか)

同じ借入5,000万円でも、支払総額はこう変わります(概算ではなく、元利均等で積み上げ計算)。

総利息(=支払総額 − 5,000万円)

  • 35年(0.68%):総利息 約619.99万円
  • 50年(0.78%):総利息 約1,039.82万円

➡️ 50年のほうが利息が約419.83万円多い(この例では金利も+0.10%上がっているため差が広がります)。

支払総額

  • 35年:約 5,619.99万円
  • 50年:約 6,039.82万円

いちばん重要:残債の減り方(=途中で売りにくくなる度合い)

「50年ローンの契約者リスク」
月々が軽い代わりに、元本がなかなか減りません。

経過35年(0.68%) 残債50年(0.78%) 残債
5年4,356万円4,583万円
10年3,691万円4,150万円
20年2,289万円3,230万円
30年789万円2,236万円

➡️ 30年経っても、50年ローンは残債が約2,236万円も残る一方、35年は約789万円まで減っています。

つまり、“売却・住み替え・離婚・転勤”などの局面で、残債が重くのしかかる期間が長いです。

「同じ月13万円なら、借入可能額が増える」の検証

公表例では「年0.68%、毎月13万円程度に抑えるなら、35年で約4,900万円、50年なら約6,500万円」という趣旨の説明があります。 

これも同じ条件で逆算すると:

  • 毎月13万円・年0.68%・35年 → 借入可能額 約4,858万円
  • 毎月13万円・年0.78%・50年 → 借入可能額 約6,457万円

➡️ 概ね「4,900万 vs 6,500万」になり、説明と一致します。 

ただし、これは裏返すと

**「買える物件を上げた分だけ、長期の残債リスクも上げている」**ということです。

金利上昇リスクを数字で(シンプルな想定で“効き方”を見る)

ここは将来不確実なので、「検証のための仮定」を見ます。

仮定:最初の5年は上記金利、その後に金利が上がって

  • 35年:2.0%
  • 50年:2.1%(+0.10%上乗せのまま、という置き方) に上がり、以降はその金利で「残期間を再計算して返済額が見直される」とします。 (実務では上限ルール等で“見かけの返済額”がすぐに上がらない場合もありますが、その場合は元本の減りがさらに鈍る方向になりやすいです。)

この仮定のもとでの結果:

月々返済額の変化

  • 35年:約 13.38万円 → 16.10万円
  • 50年:約 10.07万円 → 13.13万円

総利息(概算)

  • 35年:総利息 約1,599.68万円
  • 50年:総利息 約2,692.38万円

➡️ 金利上昇が起きると、50年は“影響を受ける期間”が長い分、総利息が膨らみやすい、という構造が数字に出ます。


契約者リスク(数字で検証した要点)

  1. 利息総額が増える(この例で+約420万円) 月々を下げる“対価”として、総コストが上がりやすい。
  2. 残債が減らず、身動きが取りにくい期間が長い 30年後でも残債が2,000万円台…というのは、人生イベントが起きた時に重い。
  3. 金利上昇の影響を受ける“期間”が長い(変動の場合は特に) 上昇局面では、返済額上昇・総利息増が起きやすい。
  4. “借入可能額が増える”が、同時に“価格下落耐性が下がる” 物件価格が下がった時、売却しても残債が残る(オーバーローン)確率が上がる。

1) 商品設計上のリスク要因

(1) 返済期間が長すぎて、元本が減らない設計

返済初期〜中期に元本がほとんど減らず、売却・住み替え・離婚・転勤など「人生イベント」で身動きが取りにくくなります。長期であるほど、この拘束期間が伸びます。

(2) “月々を下げる”ことだけがメリットで、総コストが見えにくい

月々を下げた分、利息を払う期間が延びます。さらに35年超の金利上乗せがある商品だと、総支払額が増えやすく、見た目より高い買い物になります。

(3) 変動金利前提で、金利上昇リスクを長期間抱える

短期では“楽”でも、金利局面が変わると、返済額上昇または元本減少の停滞が起きます。期間が長いほど、影響を受ける「年数」が増えます。

(4) 借入可能額を押し上げ、物件価格リスクを増幅させる

「買える額が増える」は、そのまま「高値掴み耐性が下がる」になりがちです。価格が下がった瞬間に、残債>売却額(オーバーローン)になりやすい。

(5) 手数料・保険・諸費用が“長期で効く”構造

保証料、団信上乗せ、繰上返済手数料、借換コストなど、単体では小さく見える費用が、長期だと効いてきます。「乗り換えたい時に乗り換えられない」要因にもなります。

(6) 完済時年齢の制約が、現実の生活設計と噛み合わない

実務では完済時年齢制限があるため、結局は“若いうちに長期で縛る”商品になりやすい。老後に債務が残る設計は、生活の選択肢を削ります。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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