なぜ歳を重ねると「絶対」が増えるのか?脳の省エネモードと経験の罠を乗りこなす

思考

はじめに:「絶対」という言葉の重力

「それは絶対におかしい」「間違いなくこうだ」 ふとした瞬間に、自分自身の言葉が強くなっていることに気づくことはないでしょうか。長年の経験が積み重なるほど、物事をパターン化し、素早く結論を出せるようになります。しかし、その「速さ」と「確信」が、時に周囲との溝を作り、自身の成長を止める「壁」になってしまうことがあります。

なぜ加齢とともに断定的な表現が増えるのか、その本質を見極め、「しなやかな思考」を取り戻すための対応策を考えます。


なぜ「絶対」が増えるのか?脳と経験のメカニズム

結晶性知能の「副作用」

心理学では、経験や学習によって蓄積された知識を「結晶性知能」と呼びます。これは60代以降も維持・向上しやすい能力です。しかし、この知能が強力すぎるがゆえに、「過去の成功パターン」を絶対視し、新しい情報(流動性知能が司る領域)を拒絶してしまう現象が起こります。

脳の「省エネモード」

脳は非常に燃費の悪い臓器です。新しい事象をゼロから検討するのは、フルマラソンを走るようなエネルギーを消費します。一方、「絶対こうだ」と決めつけることは、脳にとっての「ショートカット(近道)」です。思考のプロセスを省くことで、疲労を避け、精神的な安定(認知的な閉鎖)を得ようとする本能的な働きなのです。


日本と英語圏の比較:言葉の裏にある「本質」

ここで少し視点を広げ、日本と英語圏の「断定」の違いを比較してみましょう。

項目日本の「絶対」英語圏の “Absolutely”
主なニュアンス規範、同調、過去の正解個人の確信、論理的帰結
周囲への影響議論の終結(同調圧力)意見の表明(議論の出発点)
本質の乖離「和」を乱さないための強制力「個」を際立たせるための強調

柔軟性を保つための「2つの対応策」

「絶対」の罠から抜け出し、脳の活力を維持し続けるための具体的なアクションを提案します。

① AIから学ぶ「CoT(思考の連鎖)」の実践

AIが複雑な問題を解く際、ステップバイステップで考える「CoT(Chain-of-Thought)」という手法が有効です。これを自分自身に応用します。

  • 対策: 「絶対〜だ」と口にしそうになったら、その結論に至るまでの**「根拠となる3つのステップ」**をあえて声に出してみる。結論だけをぶつけるのではなく、プロセスを考えることで、自分自身の思考の欠けているものに気づくことがあります。

②「実質利回り」で意見を評価する

投資の世界でインフレ調整後の「実質利回り」を見るように、自分の意見も「今の価値観」に照らして再評価します。

  • 対策: 「30年前の成功体験」は、現代の急速な変化によって価値が目減りしている可能性があります。自分の主張が「今の市場(社会)」でどれほどの実質的な価値があるのか、考える癖をつけましょう。

柔軟性をプログラミングし直す「3つの習慣」

脳には**「可塑性(変化する能力)」**があります。以下の習慣を取り入れてみてください。

  1. 「なぜ?」を3回繰り返す(セルフCoT)  「絶対だ!」と思ったときこそ、AIのChain-of-Thought(思考の連鎖)を模倣します。「なぜそう思うのか?」「その根拠は現代でも有効か?」「別の可能性はないか?」と自問するだけで、前頭葉が再起動します。
  2. あえて「逆の意見」をシミュレーションする   投資のリスク管理と同じです。自分の意見が「100%正しい」と仮定するのではなく、「もし自分が間違っているとしたら、どんな理由が考えられるか?」をA/Bテストのように脳内で走らせてみます。
  3. 「初心者の心」を持つ   新しい技術やトレンドに対して、最初から評価を下さず、まずは少額投資(少し触れてみるだけ)を継続します。判断を保留する時間を長く持つことが、脳の持久力を高めます。

結びに:経験を「賢明さ」に変えるために

「絶対」という言葉を捨てる必要はありません。それはあなたが積み上げてきた自信の裏返しでもあるからです。大切なのは、その「絶対」をポケットにしまい込みつつ、目の前の相手には「私はこう考えているけれど、あなたの視点からはどう見える?」と問いかける余裕を持つことです。

AIがどれほど進化しても、長年の経験に基づいた「深い洞察」は人間にしか出せない味です。思考の柔軟性を高めて、生涯現役の知性を保ち続けましょう。

免責事項 本記事における脳科学的・心理学的知見は一般的な解説であり、個別の医学的診断や治療を代替するものではありません。認知機能の変化について懸念がある場合は、専門医にご相談ください。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

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